現代カトリック改革派の考え方を理解する上で「必読」と言えるハンス・キュンク著『キリスト教 本質と歴史』が和訳され先月出版された。福田誠二(司祭)訳、1200頁超えの大著。私は早速入手して読み始めた。
一般日本人には、先頃のトランプ vs. バイデンの米大統領選によって、トランプ支持層の保守派プロテスタント福音派教会の存在が知られるようになった。これにより、プロテスタントには保守派と改革派の論争があることが日本人にも分かるようになった。
他方、カトリックにも保守派と改革派の論争があることは日本にあまり知られていない。実は、カトリックの保守派と改革派の論争の方がプロテスタントでの論争よりも、教皇を頂点とするヒエラルキー構造のために、表に出てこない分だけ、一般には知られてない。しかしその分、論争は学究的であり、特に改革派側の論理展開は、最新の歴史資料や自然科学も取り入れて明晰だ。(多岐にわたり膨大で複雑ではあるが…。)
現代カトリック改革派の本格的動きは、第二バチカン公会議(1962-1965)以降に始まる。第二次世界大戦でヒトラーなどの全体主義の暴走をカトリックは止められなかった。その反省の上に、戦後の教皇達は、ヨハネ23世、パウロ6世、ヨハネパウロ1世、ヨハネパウロ2世・・・とカトリック改革を進めていった。
その改革の動きを「先取り」したのが、この本の著者であるハンス・キュンク司祭・神学者。教皇達の改革の動きを一歩も二歩も先取りした。そのためか、教皇ヨハネパウロ2世から1979年、神学部で教授を務めることを禁じられてしまった。その時の「落胆の談」が訳者あとがきに載っていた(1203頁):
…1979年の降誕祭の直前にカトリック教会での教授資格を剥奪されたことは、私(キュンク)にとって人生における最も深い落胆を与える経験であった。しかしながら、同時に、この経験は私にとって人生の一つの新しい章の始まりをも意味していた。キリスト教の教会のみでなく、世界における人類全体に関する一連の新しい諸々の主題が私の視野に入ってきたのである。女性とキリスト教、キリスト教神学と文学、宗教と音楽、宗教と自然科学、諸宗教と諸文化との対話、世界平和のための諸宗教の貢献、そして普遍的で共通な人類のエートス・世界エートスの必要性のために働くことを発見したのである…。
その後キュンクは1994年、本書『キリスト教 本質と歴史』を著し、2004年に、キュンクと同じドイツ語圏から教皇に選出されたばかりのベネディクト16世と和解し、更に精力的に改革派カトリックの研究を続ける。
2013年には、そのベネディクト16世が「自身の改革力では不足」と思ったのか「生前退位」を表明し、改革派のエース、フランシスコ教皇の登場となった。時代が、やっとキュンクに追いついた。
そしてこの2020年11月12月、フランシスコ教皇が強力に後押ししたバイデン(改革派カトリック)が次の米大統領となる運びとなった。改革派カトリックの目指す新たな社会経済システムの「実装」が始まる運びとなった。
フランシスコ教皇は、「コロナ後の地上世界は元の「ノーマル状態」に戻ってはいけない。何故ならそれは「病んでいた」から」と言っている。新たな社会経済システムの「実装」は確実に始まった。その根底にある考え方を、本書からシッカリと学びたいと私は考えている。